イタリア自動車雑貨店
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第19回 哀愁の155 Alfa Romeo 155


【森 慶太】
1966年静岡県生まれ。
筑波大卒。
自動車雑誌編集部を経て96年からフリーランスに。
著書に、「乗れるクルマ、乗ってはいけないクルマ」(三笠書房) 「『中古車選び』これだけは知っておけ!」(三笠書房) 「買って得するクルマ損するクルマ―新車購入全371台徹底ガイド」 (講談社)他多数。最近、子供も生まれ、家も建て、ますます精力的に世界中を飛び回っている。


 22歳で免許を取り、自動車雑誌『NAVI』に入社したときにはバリバリの若葉マーク。
廃車寸前の86レビンで夜毎筑波パープルラインに通い、みるみる運転の腕前を上げていった若き日の森慶太は、それから10余年、今や気鋭の自動車ジャーナリスト。
明快な論点、みずみずしい視点、の森慶太が駆る。イタリア車ははたしてどうなのか。


かつての155オーナーは何処に?

 イタリア自動車雑貨店がオープンしたのはたしか1995年。それも秋頃だったような気がする。雑誌『NAVI』でいっしょだったオータさんが突然お店を始めるときいてビックリ。

「気持ちはよくわかるけど、先行きはラクじゃないだろうな」と思った当時の私は、もっというと「遠からずツブれちゃうんじゃないの?」と思った私は、慌てて何点かお買いモノをしてさしあげた。店があるうちに恩売っとこうと思って。

 したら、予想に反してイタ車雑貨店はツブれなかった。少なくとも現在まだ続いている。明日にもツブれそうな雰囲気、ではどうやらない。その一方で、イタ車雑貨店オープン当時私が編集をやっていた雑誌は創刊後1年ちょっとで休刊(実質廃刊)。

 なんでこんな昔話をしているかというと、当初のイタ車雑貨店をセッセと支えてくれたのがほかでもない155のお客さんたちだったから。マイチェンで外観走りともにワルさというかイキのよさを増したのがたしかちょうどその頃で、DTM方面の盛り上がりなんかも効いて要するに155が売れたわけだ。
155のマイチェンで、日本におけるアルファは新しい客層を獲得した。デルタ・イ ンテグラーレの次の商売ダネを探していたある種のクルマ屋さんにとっても、155は 救いの神だった。もちろん、高価なパーツをバンバン買ってくれたから。

  イタ車雑貨店にもよくきてくれたらしいんですよ。そういう人らが。もう、見た瞬間に「あ、アルファ乗ってるナ」ってわかる姿で。トレーナーの前身頃にデッカくミラノ市の紋章が入ってたりして。

「あの人たち、いまごろいったいどうしてるんだろう?」なんて、太田シャチョーがいってるのをいつか聞いたことがある。つまり、156が登場してヒットして以降雑貨店のお客さんのスジのメインが変わっちゃったらしい。

155で乗り心地を語る

で、さて。最近の155はいったいどうなんでしょうか? というのが今回のテーマ。店員コマキがオーナーさんを探してくれて、でもって私は彼らとお会いした。クルマでいうと、たしか(笑)5台ほどいらしたわけですよ今回。どれがどれかわかんなくなっちゃうからこっちとしては2台ぐらいにしてほしいんだけど。
 

 うちわけは、いずれもオバフェンつきの後期型でV6が4台とツインスパーク(のいわ ゆるスポルティーバっていうんですか?)が1台。1台あたり平均1kmほど試乗さしてい ただいて「ヘー」と思ったことをこれから書きます。 累積の走行距離でいうと3.5万kmから6.5万kmまであったけど、今回の5台はいずれもクルマとして終わっていなかった。いやまあその程度で終わっちゃったらトンでもないことなんだけど、新車が出た当時に乗ったときの印象からして「なんだけっこうもつじゃん」という感じだった。

  というのは、マイチェン後の155のスポルティーバ系(V6もふくめて)ってスゴかったんですよ乗り心地が。簡単にいうとヒドかった。ほぼ新車なのに終わってた。タイヤサイズがイッキに偏平になって、あとおろしたてでアシの動きがシブかったせいもあったかもわからんけども、とにかくイタくて。あと、ボディがカワイソーになっちゃう感じで。

  だもんだから、当時私は「これから155買うんならTSのスーパーにかぎるな」なんて結論したわけですよ。あるいはいっそ、ほかのすべてを諦めてエンジンと心中するつもりでV6か。なのに、今回乗らしてもらった155はどれもそのときの新車より乗り心地がよかった。「あらまあ」ですよホントに。

 グッドイヤーだったかP700Z(ピレリ)だったか、あるいはその両方だったかもしれないけど、これはおそらく新車時についてたタイヤが悪かったのでしょう。実際、今回きてくれた155でOEタイヤ履きっぱなしのは1台もなかった。なかには17インチのヨンマルなんていうサイズを着けてらっしゃる人もいて、それでも乗り心地は終わってなかった。あとそう、マニアのスジでいう"ビルバッハ"、つまりビルシュタイン+アイバッハの組み合わせもどうやらいいみたい。バネのレートやダンパーの減衰力でいうとたぶんノーマルより高いんだけど、ギシギシしたフリクションなしにキレイにアシが動く感じで。

 いやホント、乗り心地って大事ですから。だって、どんなクルマでも乗り心地悪かったら乗る気しないもん。せっかく買って持ってても、だんだん乗らなくなっちゃう。あるいは、イヤでも乗らなきゃいけない人の場合は徐々にクルマが(ひいては運転そのものが)キライになる。日本車乗ってるとそうなっちゃうから気をつけたほうがいいですよ。

  これは単純にアシがカタいのヤワいのという話ではなくて、いろいろあるわけですよ。カタくても快適なクルマはいっぱいあるし、反対にソフトでもグネグネでイヤんなるクルマも多い。いずれにせよ、今回乗らしてもらった155はどれも乗り心地がイヤでなかった。



改めて知る実用セダンとしての素性の良さ

 走り出す以前に、運転席に座った瞬間から「あーこれ乗りやすい」って思わせるところが155はいい。というのは、実用車の教科書どおりのポジションがスッとすぐ出るから。床から高いところに背筋をシャキッと伸ばして上体を起こして云々、というアレですね。

  あと155、クルマのカタチも同じようによくて車両感覚がすごくわかりやすい。レーサー気分バリバリの低め基調寝そべり基調では全然ないんだけど、かえってこっちのほうがトバすときも走りやすい。スキーでもテニスでもいいけど、スポーツするときのニュートラルな姿勢に近いから。

  155の運転姿勢その他がそういう感じであることを私は知っていたけど、でも久しぶりに乗り込むとあらためて驚く。ハッとする。「あーそうそうこーだった」っていう感じで。乗り心地もそうだけど、このへんもきわめて大事なとこですから。買って乗るとなると。運転姿勢やコクピット環境がヘンなクルマでも何度も乗ってるうちに人間は慣れちゃうけれど、これは慣れるからイイっていう話ではもちろんない。だって運転しにくいんだから。
155のキャビン骨格やシーティングの設計がティーポ/テムプラそのまんまだっていうことは、お好きなかたならある程度誰でも知っている。だから重心が高くて云々とかいう人もいるし実際そうなんだろうけど、たとえばこういう美点もあるということですね。私なんて、乗るたびいや座るたびにホレなおすもん155。シッティング・プレジャーですよ。

  基本的に同じことなんだけど、155は後席の着座姿勢や居心地もいいし。つまり、カタチの基本がセダンとしてものすごくマジメにできている。欧州のこのクラスは最近どんどんデカくなってるから、その意味でも155は貴重ですよ。たとえば旧型のベクトラとかヴェントとか、いっちゃえばそういうクルマと同じだから。セダンとしての実用性の高さは。でもって、この先そういうアルファはたぶん出てこない。少なくとも150番台には。


V6の音。Alfa Romeoのサウンド。

 それとV6ですね。155関係で触れなきゃいけないのは。ゼッピンだゼッピンだって私はいろんなとこで何度も何度も書いてきたけど、アジにコダワるならオリジナル設計どおりの排気量と動弁系メカニズムをもった仕様がやっぱいい。で、それは155に載っている。昔のアルフェッタGTVとか75ミラノにも載っているけれど、それらはちょっと買いにくい。いろんな意味で。


「実用セダンとしてきわめて優秀」というのもそうだけど、そうやって譲れないポイントを明確にしていくとクルマ選びがラクになる。ラクになるというか、選びの道スジがブレなくなる。でも実際は、皆さんむしろ「このカタチがどうしても好きだから」っていう感じでお選びになるんでしょうけどね。

  今回来てくれた5台のうち4台がV6で、そのうち2台が等長フロントパイプというのをつけていた。要するに、V6の後ろ側のバンクのEXマニより下流の部分を長くして両バンクで長さを揃える、というモノなんでしょう。排気の脈動の位相を揃えるために。なんでも10万円ぐらいで買えるらしい。

 で、それ装着の個体はたしかに音が気持ちよかった。マフラーが変わってたりして音量も多少デカかったけど、それとは別になんていうかワインが空気に触れて香りやアジがウワーッと膨らんだみたいな感じで違った。

  といって、等長じゃないその部分ノーマル仕様のV6の音が気持ちよくなかったかというと全然そうではない。なんせゼッピンだから。排気系をイジってボーボーカーカーいわせるのはどんなクルマでも簡単なことで、大事なのは地の音でしょう。ジノオト。

 で、アルファ155に載っているV6はその地の音がすごくいい。ドスの効いた重低音とかキレた高音とかそういうことではなくて、中音域がこってりと充実している。個体差もあって今回の4台のV6はそれぞれに音が違ったけれど、でもそれぞれにヨカッタ。

 今回オーナーさんたちみてて「すげえな」と思ったのはその音へのコダワりように関してだった。だって、クルマんなかでMD聴くんだよ。「○○のマフラーつけるとこうなるんですよフフフ」とか「これ聴いちゃうとちょっとヤバいですねえ」とかいって。ヤバいのはアンタらだっていうの。MDで聴く以前に、MDに録ってるってのがヤバいよ約1名。

もっと深いところにいる人々

  一方、今回唯一の4気筒TSはクルマよりもオーナーがオモロかった。ちなみにハタさんて人で、名刺の情報や本人の見た目から判断するかぎりちゃんとした人だったんだけど。 だって、会っていきなり「モリさん、これちょっと」ってバッグかなんかを開けるわけ。と、そこにはカメラが何台か。「広角があると重宝ってモリさんコラムでいってたじゃないですか。私もそう思って、ホラ」 とかいって、フジのカルディアのティアラ。常時持ち歩いてジャマにならなくて広角ってことで絞っていくと外せない1台で、私も一瞬で機種名わかって十分バカ。買っても使う用事なんてたぶんないのに「できればASA25まで自動対応の初期型が……」とかブツブツ考えてたわけですよ。ASA25といえばPKM(コダック)はたしか生産終わっちゃったけど。まだあったところで使う用事はないけど。

 155TSハタ号に関しては、そのスジでいう"ロアバー"の効果がけっこう「おー」だった。フロントサスの下側アームの付け根あたりを左右に繋ぐ棒なんだと思うけど、つけるとその部分の剛性が上がるみたいで舵の効きが全然違う。いままで弱いところへ逃げてた力が逃げ道を失って、文字どおりグイグイ曲がるようになる。

 ちなみに、体験してみての私の結論は「ノーマルでいい」(笑)。本格的にアシとかタイヤとかイジる段になると欠かせなくなるんだろうけど、モリケータは逆にタイヤのサイズとかグリップ性能をオトす方向で考えるから。メガーヌ16Vに185/60R15のミシュランXH1を履かしたらどうなるか、とか。たとえば。

  ロアバー以外に、たとえばブレーキの各種パッドと同ローターの相性なんかもハタさんはいろいろ試してらっしゃるらしい。実験継続中。なんらかの結論が出たところでゼヒ教えていただきたい。もし私がいつの日か155を買ったとして(そういうことがないとはいえない)、その際には実験成果のオイシイとこだけをいただきます。ウヘヘのヘ。

  そういうわけで、基本的に最近の155はヨカッタですよ。むしろ、新車で乗ったときより印象ヨカッタ。仕様は必ずしもTSスーパーじゃなくてもいい、ということがわかったのが個人的に大きな収穫だった。いままでは、『カーセンサー』上で155はTSスーパーばっか探してたから。「あーくそ、全然ねーぞ」とかいって。これからはTSスポルティーバやV6も仲間に入れてあげよう。

  クルマ選び全般に関していうと、今回のケースみたいに経験値が増えることでストライクゾーンが広くなることがあるのが嬉しい。ほかにもたとえば、「911、オートマなら右ハンでもイヤじゃないじゃん」とか「164てボロでも楽しいじゃん」とか。あるいは、知り合いのクルマにたまたま乗ったらよかったんで「3段オートマならカローラも可」とか「カルタス1300けっこういい」とか。最近だと、旧型ベクトラのV6なんてのを気持ちを込めて探せるようにもなってきている(末期に広報車乗ったらすごいよかったんで)。

  普通の人はそういうチャンスがなかなか、あるいはほとんどないけれど、だからこそ私はそういうことを積極的に書きづづけないといけないと思っている。いわゆる不人気車にも、乗るといいのはありますよ。
 

 もっとも、155に関してはあえて頑張ってホメなきゃいけないこともないわけだけど。たぶん。年式がオチて安くなればなったで、ほしいって人は出てくるだろうから。

 あとそう。今回きてくれたV6人たちなんかは、ガイシャ好きとかイタ車好きとかアルファ好きっていうところから、もっと深い、いわば155V6の人、みたいな領域に入っている。いっしょにMDを聴く(笑)仲間もできて、カーライフに関してある特定の居場所を発見したというか。ある意味、それって155と結婚したようなもんでしょう。クルマがトシとって多少美貌が衰えても、おいそれとサヨナラするわけにはいかない。で、それもまた楽し。

  なお、「ワタシもそういうふうに155とノッピキならない関係になりたい」と思う人は試しに以下のアドレスを当たってみてはいかがでしょう。 http://www.hicat.ne.jp/home/sanma/
今回きてくれた人たちもふくめて、アツいシニョールたちがいろいろやってらっしゃるみたいですよ。



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