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第16回 Alfa 166/164のスチャラカ大試乗記 Alfa Romeo 166


【森 慶太】
1966年静岡県生まれ。
筑波大卒。
自動車雑誌編集部を経て96年からフリーランスに。
著書に、「乗れるクルマ、乗ってはいけないクルマ」(三笠書房) 「『中古車選び』これだけは知っておけ!」(三笠書房) 「買って得するクルマ損するクルマ―新車購入全371台徹底ガイド」 (講談社)他多数。最近、子供も生まれ、家も建て、ますます精力的に世界中を飛び回っている。


 22歳で免許を取り、自動車雑誌『NAVI』に入社したときにはバリバリの若葉マーク。
廃車寸前の86レビンで夜毎筑波パープルラインに通い、みるみる運転の腕前を上げていった若き日の森慶太は、それから10余年、今や気鋭の自動車ジャーナリスト。
明快な論点、みずみずしい視点、の森慶太が駆る。イタリア車ははたしてどうなのか。


エグゼ系をMTで乗る

  マニュアルシフトの166が正規で日本に入ってたなんて、皆さんごぞんじでしたでしょうか? エンジンはV6の3.0で、ということは6段のヤツが。

私は知らなかったか聞いたけど忘れてたかのどっちかで、 とにかくナンかの間違いで最初にごくチョロッとだけ入ったらしい。で、それに乗ってる人がいるってんで取材のために頼んで来てもらった。

 市村幸久さん。一見フツーのいいヒトなんだけど、ほとんどコスメティック・チューンの作品と化しちゃってるクルマ見て「タダモンじゃねえなこのヒトぁ」と思いつつきいてみたところ以前は三菱GTO(のしかもリトラクタブルライトじゃないヤツ!)を新車で買って乗ったりしていたそうだ。やっぱタダモンじゃなかった。

 で166市村号なんすけど、ナンかの間違いで入ったわりにはMTであること以外まったくもって通常の日本仕様。見た目的にはタダモンじゃないけど、ハードウェア的には。

 気になる6MTは、結論としてはけっこうヨカッタ。イタリア車の伝統でギア比の配分が絶妙だから名器アルファV6を思いどおりに回せるし(別にブン回さなくても)、ギアレバーの感触はウレシイ系だったし、右ハン+3ペダルゆえの違和感も別になかったし。

 なにより、こういうエグゼクティブ系のサルーンをMTで乗ってるってのがめちゃめちゃかっこいい。モリケータ的に、このカッコよさに対抗できるのは911カブリオレのMT(レアだよ〜)ぐらいしかない。M3や360モデナのMTでは、意外性がないから全然ダメ。しかも、911カブリオレのMTは正規だと左ハンのみ。ゆえに、166の右ハン6MTの勝ち。

 フィアットオートジャパンも、こういう間違いをもっとやればいいのに。プントのMTがなぜか入ってきちゃったとか(そしたら電話してね買ってあげるから)。しかし、考えてみたらホモロゲ関係はどうやってたのかね。MTとATは、たしかそれぞれ別々に認証とらんとイカンことになってたと思うけど。



目からウロコのアイバッハ+コニ

 なんだけど、166市村号でいちばんビックリしたのはアシ関係。実はノーマルじゃなくてアイバッハのバネ+コニ(だったと思うけど間違ってたらゴメンね)のダンパーが入ってて、これが実に見事なマッチングをみせていた。限界が高いとかそんなんじゃなくて(試すウデないからワカリマヘン)、とにかくこのアシは乗り心地がヨカッタ。

 インチアップ+ノーマルサスで入ってきてる日本仕様166は、たとえばちょっと段差を越えるだけでもボディのどっかがギシッとキシんで実にカワイソー感満点なところがある。あるいは、路面のウネリを越えるたびにハンドルにグネグネ手応えがきて「あーこらムリなインチアップしてるわ」と思わすところがある。が、市村号にはそれがなかった。ちなみにホイール+タイヤはノーマル。


 いやもー、カワイソーやグネグネなしにバンバン乗れる166がこんなキモチイイものだとは思わなかった。いわゆるローダウン系なんでサスペンションのストロークをフルに使うような上下動に対しては「それ相応の苦しさはあるかも」と思ったけれど、そうだとしても普段のほとんどの状況で感じられる大幅

なメリット増と差し引きヨユーでプラス。クルマ雑誌の原稿で「ノーマルサスより乗り心地がいい」なんて記述を読むたび「ウソばっかいってんじゃねえよ」とツッコんでいたモリケータだが、今後は態度を改めたい。そういうことも、あるかもしれない。今回みたく。

 だからといって、市村号と同じ仕様のサスを入れれば他のほとんどの日本仕様166(AT)も同じように快適なクルマになるとはかぎらない。というのは、たとえばプジョーなんかはATとMTでアシの仕様が違っていたりする。バネやダンパーはもちろん(あとスタビの径も、だったかも)、フロントのロワーアームの取り付け部のブッシュの弾性も違えてある。って、このへんはプジョー・ジャポンのそれ方面専門の人に直接きいた話なんですよ。

 つまり、ATとMTの違いがもたらすパワートレインの重量差(30kgとか? たとえば)に応じてそれだけシツコくアシの仕様を変える必要が本来あるわけ。どうやら。ちなみに、プジョーでいうとアシのキマリ度はATよりもMTのほうが概して明らかに高い。やっぱ、圧倒的にMTがアタリマエの環境で作ってるからでしょう(その点ではアルファも同じのはず)。


急勾配、2速で失速166AT


 ATに関してだけど、エンジンとのマッチングや全体としての走る楽しさ方面はかならずしもいちがいにダメとはいえないモノがある。ことにトルクに余裕のある3.0のほうだと、街中ゆっくり走行やハイウェイ巡航なら少なくとも私は不満をおぼえない。街中渋滞モードなんて、むしろヘタな日本のAT車より運転しやすいと思う。トルコンがズルズルのシャラシャラじゃないし、あとエンジンの極低回転低負荷域のトルクはわりかし豊かだし。

 166のATがツラいのは、たとえば急な上りでイッキに加速したいようなとき。2速に入った途端に失速しちゃうようなとこがあって、といって1速じゃさすがに低すぎて、そういうときは正直イライラする。普段乗っててそういうケースがどんだけあるかっていうと実はあんまりなくて、でも166導入の試乗会のときは富士山五号目までついつい上がりたくなるシチュエーションで、だから私をふくめてリポーターさんたちはそのツラい部分のことをついつい多めに書いてしまったかもしれない(フィアットオートも場所考えりゃいいのにもう少し)。

 その点164は車重がずいぶん軽かったし、24Vよりは下があった(たぶん)し、同じ4段といってもずいぶんラクだった(各段のギア比やオーバーオールの減速比も違うかも)。というか、ほとんどアラが出なかった。いちばんデカい排気量のエンジン+オートマ、というのは日本仕様ならではの車種選定だけど、こと164にかぎってはその仕様がかなり大当たりだった。が、そういうラッキーはあんまり続かない。

 まーとにかく、166MT市村号はヨカッタってことで。さすがGTO後期モデルを新車で買った剛の者だけあって、二度とないチャンスを見事にひっつかんだ感ありあり。だって市村さん、この166新車で買ってるからね。中古で狙おうたってなかなか出てくるもんじゃないよ、こういうのは。で、ひとたび買いそびれると後々『カー●ンサー』とか眺めながらブツクサいうことになる。「今回も収穫なしかよ」とか「ちくしょー高えな」とか。

164を一気乗り、メッタ斬り

 えーさて。写真にあるとおり、今回の取材には166市村号以外にもずいぶんとたくさんのアルファがやってきてくれたのでございます。というのも実は今回、こないだ紹介したゴトーさんの164Q4のリベンジ試乗会をやることになってたですよ。ダンパーからゴム関係からアシ回りを一新したってんで。何十万円だか金額は忘れたけど、とにかくエラいカネかけたらしい。オネエチャンに注ぎこむぶんをせっせと節約して(オフレコ)。

 じゃあせっかくだからと思って、森慶太はちょっとだけリップサービスをしてしまった。「だったら僕、156GTAの広報車借りて乗ってきますよ」とかいって。実際は借りられなくてメガーヌで箱根までいったんだけど、したらさあタイヘン。164オーナーズクラブの有志の皆様が食いついたこと食いついたこと。ゴトーQ4号のほかに、164が4台も来ちゃった。朝もはよから箱根まで。あたしゃ、軽はずみな言動を心から反省したね。だって、名刺もらってわかったけど皆さんそれなり〜けっこうちゃんとした社会人なのよ。164さえ乗ってなきゃ(笑)。ごめんなさいねえ。

 

かくして、時ならぬ164各種大試乗会が始まってしまった。うちわけは97年Q4ブラック新井号と97年プロテオレッド奥田号と95年Q4レッド過走行ゴトー号と96年スーパー12V鈴木号と92年QVレッド小林号。あとは普通のヤツとスーパーの24Vがあればカンペキという。ナンなんだ(笑)。こんなの、どっかのクルマ雑誌で8ページぐらい割いたっていい企画だよ。『UCG』とか、やってみろっての。やってたらゴメン。

 まず、95年Q4レッド過走行ゴトー号は復調著しいモノがあった。内装部材やシートが盛大にキシむ(シートに関してはなぜかテカりも尋常でなし)のは相変わらずだったけど、走りは見事にシャキッとしていた。本来の楽しさがかなりちゃんと戻ってた。それでクルマがなまじ極上ミントもんだったりするともったいなくて尻ごみしちゃうけど、ゴトー号みたいなのだったら他人のワタシでも遠慮なくバンバンやれる。ああ楽し。ゴチソーさま。

 でその、なまじ極上ミントでもったいなくなっちゃう系が97年Q4プロテオレッド奥田号。とにかく、ゴトー号とたった2年差とは思えないコンディションのよさ。ボディにしろアシにしろ、新車当時に広報車乗ったときの印象と違わない。というか、広報車よりシャキッとしてたぐらいで。あるんだ、こんなの。

  もしワタシがいまQ4の程度のいいのをどうしてもゲットしたくなったとしたら、奥田さんとコンタクトを密にして愛車を譲ってもらえるよう頑張ると思う。「いやもー、156GTAなんて乗っちゃうと164Q4はトラックですよトラック」とかなんとかテキトーなこともっともらしくフイてその気にさして。

 ヘンな話、クルマにかぎらず部屋とかいつもピチーッと整理整頓してそうな人っているじゃないですか。奥田さん、きっとそれ系。理想的な前オーナー像(笑)。ちなみに森慶太はそれの正反対系。メガーヌの外装のキッタねえこと。室内は、掃除はあんまりしてないけど余計なモノ一切つけたり置いたりしてないからそれなりだけど。

 奥田号はタイヤがノーマルのピレリ(もちろんP-ZERO)じゃなくミシュラン(PILOTSPORT)になっていて、たしかにピレリとは乗った感じが違った。なんていうか、クルマ側の必ずしもカンペキじゃない部分を許してくれる度合いが低い感じがする。半ズボンじゃ入りにくそうなレストラン、みたいな。とにかく、新車みたいだった。


ありがた〜い164Q4


 97年Q4ブラック新井号は、クルマがどうこうよりオーナー本人がスゴかった。この人、かなりイッちゃってます。もしワタシがQ4を買ってナンか困ったことが発生したら、というかそういうことが発生する前に、新井さんにウマいメシ何回かおごって実績作っといて困ったときに電話する。新井さんだったら、たぶんいまからすぐ中古車屋はじめられると思う。ただし164Q4専門の。すぐツブれるか。あるいは、テレビ東京の『TVチャンピオン』に164Q4チャンピオンの回があったら間違いなく勝つ。「ハイ、この部品は何年型から何年型までのものでしょう?」とか「この部品はQ4に使えるでしょうか?」とか、即答。

 クルマ的には、新井号は奥田号とゴトー号の中間ぐらいのコンディション。その中間の幅が実はものすごく広いわけですが、実際乗った感じでいちばん印象的だったのはタイヤ。やっぱ、経年変化が進んじゃってるとアジも性能も確実にオチるのね。勉強になるなあ。

 ところで、今回は164じゃないクルマもやってきていた。具体的には現行カローラの1.5のオートマ。元Q4オーナーの某さんが、やむにやまれず会社の営業車で来ちゃったという。ある意味、新井さんよりキてるかも。会社の人がこのページ読んでないことを祈る。

 3台乗ってあらためてわかったことに、164でもQ4はなにやらありがた〜いクルマである。本当は、ハコネでチョイ乗りしただけでウンヌンすべきではない(それはどんなクルマでもそうだけど)。具体的には、FFモデル比200kg強の重量増がそのありがた〜い感じの源になっている。もちろんハコネで乗っても楽しいは楽しいけれど、気合入れてつきあう覚悟がないと心理的にも重たいと思う。その意味では164のスーパーカーといってもいい。

 ヨンクの制御の塩梅で、ギリギリまで攻めた走りをするとグリップバランスのアンダー傾向/オーバー傾向が旋回中に変わるという独特のアジがQ4にはあるらしい(ハコネでナナメにしてトバしまくるオーナーも164オーナーズクラブにはいるらしい←ゼヒ一度横のっけてもらいたいもんだ)けど、そういうのはワタシにはわからなかった。攻めなかったし。ただ、FFとは重さ以外も明らかに違った。フルタイム4駆ならではのヌーッとした接地感が常にあって、それでいて世の多くのフルタイムヨンクのようなガンコさドンくささがない。その意味で、164Q4はデルタ・インテグラーレのエグゼクティブカー版ともいえるかもしれない。貴重だわね。

QVもいい。12Vもいい。でも166がいい。

 今回の思わぬ収穫その2(その1は166市村号のアシ)だったのが、92年QVレッド小林号。程度としては基本的にゴトー号と張るボロさ……いやコナれようで、しかもダンパーはヌケヌケのタイヤはメイドインジャパンのインチキ・ミシュランだったんだけど、その状態で乗って見事にヨカッタ。

 とにかく、トガってなくてひたすら楽しい。なにより、カルい! エンジンのオトあたりも、Q4とはまた違ったアジありまくり。というか、12バルブなぶんQ4よりまろやかで(それでいて誇らしくて)いいかも。以前に中古で乗ったQVはパワートレインのアバれようといいアシのヤンチャ度といいまさにジャジャ馬だったけど、それとは全然違った。という話をオーナーにしたら、どうやらそのジャジャ馬ぶりはQV91モデル特有のものらしい。たしかに、前に乗った中古も91年だった。しかし、ホントかね。そういう話が普通に飛び交ってる世界ってのもコワいけど。

 ボロさ……いやコナれの進みようもあって気軽にバンバン楽しめた92年QVは、これはホントにオススメだと思った。値段も、Q4と較べたらウソみたいに安いし。正直、オーナーしばらくどっかいっててくれって思ったもん。オレ金払うからメシ食っててくれとかって。でその間、ココロゆくまで乗り倒す。これでダンパー新品にしてタイヤをミシュラン(パイロット・プライマシーあたりですかね)に変えてやれば限界も間違いなくグッと高くなるし、最高だよ。なんだけど、タマ数はQ4より少ないらしい。でもこれ、オススメですよ。マジで。こんだけボロくてこんだけ楽しいんだから。

 あと、スーパー12Vも意外な発見(その3)だった。スーパー24Vは前乗って「なんじゃこら?」だったけど、 12Vは低速トルクがあって相当マシ。てゆうか、これだけ乗ってたら別に何ら文句なし。ちょっとズッシリめのハンドル手応えやダンピング効かしめの乗り心地はスーパーならではのアジのようで、全体としてそれなり独自のイイモノになっていた。Q4に一脈通じる重み感やオトナ感のある、しかもイージードライブ(オートマだからね)も可能な164。今回みたいに程度のいい個体だったら、買いものとして高得点だと思う。

 ということで、長々とお送りしてまいりました166および164各種のスチャラカ試乗記。気にしてる皆さん、何らかの参考になりましたでしょうか? 「ちなみに今回、全部乗ったなかでモリさんいちばん気に入ったのは?」というQ4ブラック新井さんの質問に、ワタシは思わず「166」と答えてしまったのでございます。アッと思ってももう遅い。「いまこの瞬間、アナタは5人の敵を作りましたよ」だって。そういう新井さんの、目は(たぶん)笑ってたんだと思う。見てなかったけど。


 



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※当ページでは、森慶太氏の試乗車を募集しています。
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