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第9回 やりたいことはひとつ Alfa Romeo 145


【森 慶太】
1966年静岡県生まれ。
筑波大卒。
自動車雑誌編集部を経て96年からフリーランスに。
著書に、「乗れるクルマ、乗ってはいけないクルマ」(三笠書房) 「『中古車選び』これだけは知っておけ!」(三笠書房) 「買って得するクルマ損するクルマ―新車購入全371台徹底ガイド」 (講談社)他多数。最近、子供も生まれ、家も建て、ますます精力的に世界中を飛び回っている。


 22歳で免許を取り、自動車雑誌『NAVI』に入社したときにはバリバリの若葉マーク。
廃車寸前の86レビンで夜毎筑波パープルラインに通い、みるみる運転の腕前を上げていった若き日の森慶太は、それから10余年、今や気鋭の自動車ジャーナリスト。
明快な論点、みずみずしい視点、の森慶太が駆る。イタリア車ははたしてどうなのか。


達筆とはいえない手書き


「いまさら145ってのもどうなんですかねえ」等オーナー、正確にはそのムスコであるイタ車雑貨店店員3号=コマキタローにいわれつつ乗ってみた。考えてみたら、145に乗るのはこれが初めてかもしれない。あーいや、その昔フラット4 をのっけたヤツにはチョイ乗りしたことがあった。1.7で127psだかの最速仕様。あれはトルク細くて乗りづらかった。ド新車だったから? もう7年とか前のことだ。  

 結論としてはこれ、これとは145ツインスパーク後期型のことだけど、147によく似ている。いや、ものすごくよく似ている。原稿というか文章でいうと、いいたいことは基本的に同じだ。もっといえば文面もほぼ同じ。ただし、ワープロで清書された147に対して、145の場合は手書きであるという。それも、必ずしも達筆とはいえない種類の。  

 非常にいい意味で「なぁんだ」とワタシあたりは思ったわけですよ。その意味ではこれ、サーブ9000の最終型にも通じるものがある。現行型=9-5が突如としてあのような名車になったとばかり思っていたら、その直前のモデルも乗ったら実はソックリだった(できそこないのサーブという印象しかない初期型の9000も、あらためていま乗ったら見直せるかもしれない)。なお、そう感じた旨サーブの開発者に告げたところ、「なるほど。でも、9000のリアサスでは快適さと操縦性の妥協点をあれ以上高めるのは……」とかいっていた。



唯一の違和感


要するに、やりたいことはひとつ。心はふたつない。で、あとは単純に道具だての問題であると。旧ティーポと同じ骨格同じリアサスでやるしかなかった145に対し、現行147の道具だてはアルファ専用度をググググググッと高めた156世代。その違いは、ものすごく大きいようでいて実際はそうでもない。別に145の試乗記でこのスペースを埋めることの正当性を主張したい一心でそういっているのではなくて、なによりワタシ自身が素直に感心しているのである。  

 たとえば、出た当初の155に初めて乗ったときは正直「ナンジャコラ!?」だった。トランスアクスルFRとエンジン横置きFFとの、あるいはド・ディオン+ワッツリンクとフルトレとのどデカい違いを乗り越えて、前任車75と同じ走りの世界を再現しようとしていた。優秀な重量バランスその他の素性があったから許されたフヌケ系の、あるいはユルめ系のチューニングをギリギリのFFプラットフォームでやるのは大いにムリがあった。で、大幅なテコ入れを経て156へたどり着いたそこからの道のりは要するに164化にほかならない。本当は、というかもっと深いところではこの場合も「心はひとつ」だったのだろうけど。

 145に関するほぼ唯一の違和感らしき違和感は、エンジンのマウント。もっと具体的には、1速に入れてクラッチを繋いで発進するときにパワートレインがギクッと揺れやすいことだった。ワタシはそのギクッを出すのがものすごくキラいなので、ナニがナンでも出すまいとして死ぬほど丁寧にクラッチを繋ぐ。と、ゴゴゴッというこもりが一瞬出る。これまたいささか、嬉しくない。クラッチを多少多めに滑らし気味にして多少元気よく、その意味ではイタリア人風(?)にスタートすると上手くいくのだけど、ド渋滞のなかでそれを繰り返すのは少々ツラい。なんか、「ラテンのアツい血」(笑)信奉者みたいだし。  

 で、それ以外はホントにゴキゲン。運転姿勢はほぼ理想的だし(ただし、小柄な人だとシート位置は高すぎるかもしれない)、右ハンのペダル配置もヘンでないし(初期モノとは違うとの説あり)、多少ドタつくけど乗り心地も優しいし、シートもいいし。あとまあ、エンジンもいいしギア比の配分もいいし。上記のマウント問題も、乗ってるうちにどんどん慣れる。しばらくすると、ギクッもゴゴゴッも出さずに平気な顔で運転できる自分をほめてやりたい気分になってくる。似たようなクセをもつクルマにたとえば現行プントHGTアバルトがあるけれど、あれと較べたら145をキレイに運転するのはまだしも相当ラク。



自戒もこめて・・・


なにより、いま安いでしょう。145は。新車の147が300万円前後するのに対して、145は高年式上モノでもその半額見当。ナニを手に入れたいかによって話は違ってくるけれど、乗ってどうこうを重視するなら文句なしにオススメ。147になってまるで別モノみたいによくなったようなことが雑誌あたりに書かれているかもしれないけれど、鵜呑みにしてはいけない。自戒もこめてそう書きたい。  

 あとそう、145とは関係ないけどFIAT系の6段MTに関して最近興味深い話をひとつきいた。某『くる○にあ』の取材で埼玉県上尾市の某店を訪れた際、そこの人がいうには「5段のほうは耐久レースで7時間走ってもナンともなかったけど6段は3時間でイッちゃった」。公道で普通に乗っていてコワれることはないだろうけど、限られたスペースのなかで1段増やすために強度のマージンをある程度妥協していることは想像できる。だいたいレース用じゃないし。クーペFIATにしろアルファのGTVにしろ、ワタシ的にはゼヒ6段のほうを買いたいと思う。でも、こういう話をきくと5段の古いほうにもありがたみが出てくる。

 一部の希少スペシャル物件にバカ高値がつく状況は、個人的にはちょっと「バーカ」と思う。型落ち物件に無理やりリクツをつけて「だぁからいいのよ」みたいなことをいってるヤツも「なんだかなあ」と思う。もっと自然体で、あるいは常識人の態度で(笑)いきたいものである。その意味でも145はいい。  

 この先145がクルマ雑誌で積極的に紹介されることはあまりないだろうから、今日このコラムを読んだアナタはラッキーですよ。こういう発掘系ネタとして、そのうちたとえば155のQ4とか、あるいはツインスパークのスポルティーバじゃないヤツとか、そういうのもゼヒやりたい。ついては、誰か貸して。雑誌のインプレみたいな乱暴はしませんから。



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